誤解から学ぶ緑内障

  実践その3 点眼できてますか? ー点眼するまでが治療ですー

  1. まとめ

    眼科医の勘違い、それは

    「患者さんはきちんと点眼をしている」

    我々眼科医は「診察し原因を考え診断を下し点眼剤を処方しました!!」それだけで満足してはいないでしょうか?

    我々眼科医は「最先端の知識検査技術を総動員し最先端の結論を導き出し最先端の点眼薬を処方処方しました!!」この時点で終了と思ってはいないでしょうか?

    ダメです。本当に大事なのはこの先です。

    処方された点眼剤を、患者さんがきちんと点眼できていなければ、全ては意味のないものに終わってしまいます。

    「患者さんが点眼剤をきちんと点眼する」までが治療なのです。

  2. まとめ

    小生が筆頭で執筆した唯一の論文は「実際に患者さんが点眼できているかどうか」に関するものです。

    緑内障患者さんに以下の項目でアンケート調査をしました。

    「忘れずにきちんと点眼できているか?」 「うまく点眼出来ているか?」 「一回の点眼で何滴使うか?」

    この3項目に対し以下のように答えた患者さんを「良好」としました。

    「毎日できている」 「うまくできる」 「一滴」

    結果「良好」な患者さんは38%、眼科医が想定している「きちんとした点眼」が出来ている患者さんは全体の1/3という結果になりました。中身を精査すると

    「毎日できている」80% 「うまくできている」65% 「一滴」55%

    以上から考察すると、「点眼をする」という行為はきちんと出来ているようですが「点眼手技」に関しては難があるようです。

  3. まとめ

    「点眼手技」について考えてみます。

    「点眼手技」に関しては、眼科に常設されているパンフレット、web サイト、諸々の媒体にて指導、提言、啓蒙されています。その内容に異論は基本ありません。

    ただ、内容が少し「カタイ」のでは、それゆえ点眼が億劫になるのでは、と個人的には思うのです。

    例えば「手洗い」に関して。一般的な点眼指導の一行目は、ほぼ「石鹸で手洗い」です。もちろん大事なことです。しかし、手洗いをしていない「普段の手」はそこまで不潔なのでしょうか。「手洗い」をするにしろ、石鹸を使わず水洗いで十分では、とも思うのです。

    「姿勢」に関する記載も多々あります。が、個人の自由で良い、忙しい方なら立ったままでも良いのでは、とも。

    あまり「カタイ」ことにとらわれず、気軽に気楽に点眼する、ぐらいの心構えで良いのでは、と個人的には考えています。

    小生なら点眼指導の「一行目」に何を書くか。ズバリ「下まぶたをひく」です。

    さらに詳細に述べます。

    「下まぶたを引き、下まぶたに点眼剤を入れる」

    一番大事なポイントだと個人的に考えています。

  4. まとめ

    点眼というと「眼球に直接」というイメージがあるかもしれません。例えば目薬のCMでは、まさにそういった感じです。正確に言えば、黒目と呼ばれる「角膜」に直接点眼するイメージです。点眼剤が「角膜」のど真ん中にヒット、そのままサーッと全面に広がっていく、図4左のような感じです。

    このイメージは間違いです。以下に直接角膜に点眼するデメリットを列挙します。

    “「直接点眼された薬剤」は「角膜」に強い刺激を与え傷をつける原因になる”

    “万が一「点眼ボトル」を落とした時、「角膜」を直撃し傷をつける”

    角膜は透明性のある組織です。万が一傷がつくと混濁し視力が大きく低下します。

    また点眼剤を作用させたい部位は「角膜」とは限りません。例えばアレルギー性結膜炎であれば周囲の「結膜(白目)」が主座になります。緑内障点眼剤も、結膜(白目)を通過して眼球内に移行します。

    角膜を守るためにも「下まぶた」に点眼剤を入れてください。イメージはボトルの横を見ながら点眼する感じです。わずかの差ですが、点眼の手技が格段に向上します。

    点眼ボトルの「先端」が怖くて点眼できない、という方もおられます。「下まぶた」に点眼する場合、ボトルの横を見ながらの点眼になります。つまり「先端」への恐怖感が和らぐことが期待できるのです。下瞼に点眼するメリットの一つと言えます。

  5. まとめ

    1回1滴も大事です。何滴も点眼したからといって効果は上がりません。一回の点眼で眼球に吸収される量は決まっています。それ以外は眼球外に溢れて、皮膚炎等の原因になってしまします。

    あと一手間。点眼後、しばらくは眼を閉じておいてください。一呼吸置くぐらいの感じで良いです。全身の副作用があるものでしたら、目頭と鼻の間を少し押さえておいてください。

    大事なポイントは「下まぶたに1滴」。他人に点眼する時もそのようにしてあげて下さい。

  6. まとめ

    子供の点眼に関してです。

    基本的には大人と一緒です。が、なかなか難渋です。とにかく嫌がって暴れる、また暴れる、眼を開けない、泣く、などなど、毎度毎度格闘になってしまっている、かと思われます。

    大事な事は「無理しない」。

    姿勢は子供の好き勝手な具合で良いです。寝転がっていても、膝枕でも、椅子で変な姿勢になっていても、なんでも良いのです。

    無理に眼を開けるのは危険です。眼球、まぶた、それどころか身体諸々の部位を傷つける可能性があります。

    また泣いている状態で点眼すると点眼剤が薄まってしまい、効果が減じてしまいます。

  7. まとめ

    お子さんをどれだけあやしても工夫しても、上手く点眼できない、もうお手上げ状態、点眼無理、そんな親御さんに裏技をお伝えします。

    横になり眼を閉じている。この状態のまま鼻と目の間、目頭に点眼します。すると水溜まりならぬ「目薬溜まり」ができると思います。そのまま「まばたき」すると点眼剤が眼の中に入っていきます。まぶたを閉じている状態であっても、わずかに隙間があります。それゆえ「まばたき」せずとも、その隙間から点眼剤が入っていきます。

    寝ている間に点眼する、という手もありです。その際も眼を閉じている状態で目頭に点眼してあげて下さい。無理やり瞼を開ける必要はありません。

    もう一度言います。「子供への点眼は無理なく」です。

  8. まとめ

    点眼剤の数に関してです。

    中には出来るだけ多くの点眼剤を使いたい、と思っている方もおられると思いますが、是非とも必要最低限にしていただきたい、と思う次第なのであります。

    点眼剤には基本「防腐剤」が含まれています。この防腐剤は眼球表面(角膜や結膜)に傷や炎症を生じさせる可能性があります。点眼剤数が増えれば増えるほど、防腐剤の量も増え、その結果、眼球表面に障害が生じる可能性が高まります。角膜びらん、アレルギー性結膜炎、ドライアイ、といった疾患です。

    その点だけでも点眼剤数は少ない方が良いと思われます。

  9. まとめ

    多数の点眼剤を使用している方が安心感があるかとは思います。しかし、現実的に考えて、多数の点眼剤を長期間継続できるでしょうか?最初はよくても途中で疲弊し、点眼を中断してしまうこともあり得るのでは。

    緑内障治療で考えてみます。

     

    より大きな眼圧下降効果を期待し、多数の点眼剤を使用するとします。点眼しているうちは大きく眼圧が下がり、視野欠損の進行も緩やかになった。しかし、多剤ゆえ途中で疲弊、点眼剤を全て自己判断で中止。すると眼圧は下がらず、視野欠損の進行も再び速くなってしまう。

     対して、大きな眼圧下降効果は期待できないけれども、あえて少数の点眼剤を使用したとします。眼圧下降値は小さく、視野欠損の進行もやや早め。しかし、少数ゆえ長期間途切れず継続して使用できた。

    最終的にどっちがより進行した緑内障になるか。一概には言えません。しかし、疲弊し途中で点眼剤を中止してしまった多剤使用の患者さんの方がより進行する可能性もあります。

    まさにウサギとカメの話です。

    多数の点眼剤で疲弊し途中で治療を中断するぐらいなら、少ない点眼数で地道に長く続ける方が将来的な視機能維持に繋がる、と個人的には信じています。

    それゆえ、点眼剤を増やすかどうか悩んだ患者さんに対して、小生としては「増やさない」という方針を選んでおります。

  10. まとめ

    マラソンと一緒です。最初から飛ばしすぎてはダメです。

    2017年おかやまマラソン、最初調子に乗ってガンガン飛ばしました。しかし、ハーフまですらもたず、結果惨敗。

    反省を踏まえた2019年静岡マラソン。飛ばしたい気持ちを抑えつつ我慢を続けました。15km地点では「おかやまマラソン」時よりも断然遅いです。それでも我慢に我慢を重ね、25km地点では逆転、結果、無事4時間切り。

    4時間前後で終わってしまうマラソンと、生涯続くかもしれない「緑内障点眼」を一緒にするのもどうかとは思いますが。

    それはさておき、無理のない範囲で続けていくことが大事かと思います。そのためには点眼剤数を「敢えて」減らすこともありだと思って下さい。

  11. まとめ

    なお緑内障点眼剤においては、1つのボトルの中に2剤分の効果があるもの、いわゆる「合剤」があり、それにより「点眼剤数」を減らすことが出来ます。

    緑内障患者さんが「疲弊」「ドロップアウト」しないための工夫と言えます。

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