誤解から学ぶ緑内障

  誤解その3 「眼圧が高いと緑内障」 -眼圧は緑内障早期発見の「キッカケ」になりうる?-

  1. まとめ

    進行してしまうと後戻りができない、それが緑内障です。できれば「初期」で発見して進行を抑えたい。しかし、初期の段階では自覚症状はない。自覚症状のない病気をどうやって発見するのか? どうすれば初期のうちに緑内障が発見できるのか。

    発見するための「キッカケ」の候補として、まずは「眼圧」が思い浮かぶかと思います。

    緑内障といえば眼圧、眼圧といえば緑内障、というぐらい、緑内障と眼圧は切っても切れない関係だ、と信じられているようです。現に患者さんと会話していてもそう感じます。眼科医からの説明も、実際の臨床の現場でもホームページ等でも、緑内障といえばまずは眼圧から、といった流れになっているかと思います。

    眼圧の上限は “21mmHg” とされてきました。とすれば眼圧が “21mmHg” 以上の方は全て緑内障なのか。答えは “No” です。後にまた提示しますが、図1のデータによりますと、緑内障発見時の眼圧は、92%の方が21mmHg以下だったのです。つまり眼圧を基準に緑内障を診断すると、9割の方を見逃すことになってしまいます。

  2. まとめ

    今回「緑内障」の話をするにあたり、眼圧はあえて後ろの方に持ってきました。小生個人的な考えで言いますと、眼圧は脇役に過ぎません。緑内障の主役はあくまでも「視神経」と「視野」にあると考えています。

    もう一度、日本緑内障学会による緑内障の定義を掲示します。

    「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」

  3. まとめ

    特徴的変化があるのは「視神経」と「視野」であり、「眼圧」にはありません。つまり緑内障を発見するにあたり「眼圧」は有用ではないのです。

  4. まとめ

    では眼圧は意味がないのでしょうか。定義をさらに読み進んでみます。

     

    「眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる」

    このように記載されています。つまり「眼圧」は「診断」には無関係であっても「治療」には必須なのです。

    では「眼圧」とは何か。

    眼とは水風船のようなものです。内側からある程度の水圧がかかり眼のカタチを維持しています。この水圧のことを「眼圧」と呼びます。適正な圧力がないと眼の機能が維持できません。眼の周りには眼球を動かす筋肉が6つ付着しています。この筋肉が動くとき「眼圧」が低すぎると、眼がひしゃげてしまい、モノが歪んで見えてしまい。もちろん硬すぎても諸々の問題が生じます。

  5. まとめ

    さてこの眼圧に「上限」はあるのでしょうか?

    眼圧の上限は ”21mmHg”と「伝統的」に解釈されてきました。この “21mmHg” をどのようにして決めたかというと、あくまでも統計学的なものです。何人かの眼圧を測定した結果、95%が21mmHg以下の眼圧だった、ただそれだけです。緑内障の発生率とは無関係なのです。

  6. まとめ

    2000年に変化が生じます。緑内障疫学調査「多治見スタディ」です。岐阜県多治見市の40歳以上の成人を対象とした疫学調査で緑内障に於ける眼圧の概念が大きく変わりました。

    この疫学調査で分かったことはたくさんあるのですが、一番有名なのが緑内障の有病率は5%、つまり20人に1人が緑内障だった、ということです。

    ここからが眼圧にまつわるお話です。この調査の際、緑内障を指摘された時の眼圧が21mmHg以下だった方の割合は “92%” だったのです。つまり、眼圧21mmHg以上のみを基準にし緑内障を判断していたならら、9割の緑内障患者さんを見逃していたことになります。

  7. まとめ

    図7のグラフは多治見スタディでの結果のうちの一つです。

    各眼圧別にどれだけの緑内障患者さんがいたかを表しています。青が眼圧ごとの人数の割合、オレンジが緑内障有病率になります。

    眼圧 “10-25mmHg” の範囲においては、どの眼圧においても緑内障有病率は、ほぼ変わらずと考えられます。18mmHg前後に山がありますが、有意差はありません。

    このグラフから分かることを端的に申し上げます。

    「どんな眼圧の値であっても緑内障は発症する」

    だから眼圧が低くても安心は出来ないのです。

  8. まとめ

    とすれば眼圧測定は不要なのか、という意見も出てくるかと思います。が、眼圧値は緑内障治療に関わってきます。緑内障診療において診断の主役は「視野」ですが、治療の主役は「眼圧」なのです。緑内障治療時に目標とする眼圧値は、無治療時の眼圧値が基準になるのです。そういった点で、たとえ緑内障が指摘されていなくても、普段の眼圧値を計測しておくのは後々非常に役に立つことになるのです。

    また異常な高眼圧の際には、緑内障に限らず諸々の眼の病気が発症している可能性があります。そういった点でも眼圧測定は有益だと思われます。

    では、次章でいよいよ発見方法について述べたいと思います。

Produced by

小野原いくしま眼科

〒562-0032 大阪府箕面市小野原西6丁目12番地1号 岩本ビル2F

http://o-ieye.jp/

Copyright © Onohara Ikushima Eye Clinic. All Rights Reserved.

Pagetop